台湾北部の桃園、新竹、苗栗(びょうりつ)地区は、「桃竹苗」と呼ばれ、客家人が多く住んでいることで知られる。また、客家人とその文化はお茶と密接な関係があり、優良なお茶が栽培される産地としても知られている。今回は台湾茶の販売を手がける「台湾福茶」の協力の元、収穫と製茶が最盛期の東方美人茶園を訪れ、栽培状況と製茶の様子を視察した。
台湾鉄路竹南駅から車で30分弱の場所にある苗栗県頭份郷。日新有機茶園の許時穏さんが手がけるお茶は2008年に全国有機茶品評会で特等金賞を獲得した一級品。許さんも全国第十一回十大傑出農村青年に選ばれたお茶のスペシャリストだ。東方美人は6月上旬の「芒種」前後一週間が旬の時期と言われ、昼夜を問わない製茶作業が急ピッチで続けられていた。
朝に収穫された茶葉は直後から、製茶作業が始まる。萎凋(いちょう=乾燥)、攪拌、発酵、殺菁(さっせい)、揉捻(じゅうねん)など、その工程は複雑だ。その日の天気や気温、湿度によって製茶にかかる時間がそれぞれ異なり、判断は長年の経験と勘が頼り。製茶作業が進むにつれてお茶の色が緑から黒く変化し、香りも刻々と強くなる。半日以上かけてすべての工程が終了すると、やっと包装され、出荷される。しかし、一日の作業はそれだけでは終わらない。昼に収穫された茶葉の製茶作業も続けて行われるため、作業は深夜まで及ぶ。許さんはこの時期になると、寝る時間もない、と言う。
東方美人は濃厚な甘い香りとすっきりとした味わいが特徴。茶葉は芒種の時期に活動が活発になる「ウンカ」と呼ばれる害虫による食害が発生することで、渋みが減り、かえって独特の香りやうまみが引き立つと言う。当然ながら農薬不使用の有機栽培。ウンカの食害に遭った若葉は黄色く変色し、茶摘みから製茶の過程で芽の部分が白っぽくなる。小さな若葉は茶摘みに手間がかかるが、この芽の部分が多ければ多いほど、茶葉としての価値が高まる。許さんによれば今年は「まずまずの出来」だとか。新茶は特に香り高く、上品な風味と味が楽しめる。2~3年ものも甘みが増し、味わい深くなる。
許さんの手がけるお茶にはファンも多い。取材に訪れた日も、多くの人が製茶作業の見学に訪れていた。毎年購入していると言う苗栗県に住む夫婦は「やっぱり美味しいから買う。いつも楽しみにしています」と話す。ただ、天候や湿度に大きく左右されてしまう東方美人の栽培には困難が付きまとう。製茶作業も手間がかかり、産量も決して多くはない。貴重な東方美人は、特別な日に、贅沢な気分を味わいたい気分の時に最適な台湾茶。丹精込めて栽培された優雅な味と香りを楽しんでみてはいかがだろうか。